東京地方裁判所 昭和50年(行ウ)2号 判決 1978年9月21日
東京都三鷹市井口三五七番地
原告
榎本武男
東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号
被告
武蔵野税務署長 仲尾庄一
右訴訟代理人弁護士
国吉良雄
右指定代理人
友井淳一
同
高梨鉄男
同
島田三郎
同
鈴木正孝
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた判決
一 請求の趣旨
1 被告が原告に対し昭和四八年九月二九日付でした原告の昭和四七年分所得についての更正処分及び重加算税賦課決定(いずれも昭和四八年一一月二日付再更正処分で一部取り消された後のもの。)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、その昭和四七年分所得税について次表確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告から同表更正欄記載のとおり更正処分及び重加算税賦課決定(以下一括して「本件課税処分」という。)を受けたので、これに対し異議申立をしたところ、同表再更正欄記載のとおりの再更正処分によって税額の一部が減額されたが、異議申立は棄却され、さらに審査請求も棄却された。
2 しかしながら、原告の分離短期譲渡所得金額は四、〇〇〇万円であるから、これを一億四、〇〇〇万円と認定した本件課税処分は違法であり取り消されるべきである。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。
三 被告の主張
1 本件課税処分における所得金額の内訳は次のとおりである。
(一) 総所得金額(農業所得及び不動産所得の金額) 三〇三万七、七〇〇円
(二) 分離短期譲渡所得金額 一億四、〇〇〇万円
2 右分離短期譲渡所得金額について
原告は、昭和四四年六月三〇日訴外高安進から茨城県東茨城郡美野里町大字西郷地字鷲山一三四六番地外五筆の山林八万四九二平方メートル(以下「本件土地」という。)を代金一億六、〇〇〇万円で買い受け、これを昭和四七年一〇月三一日訴外たたえ沼産業有限会社(代表取締役右高安進。以下「たたえ沼産業」という。)に対し代金三億円で売り渡し、その代金として同日二億三、〇〇〇万円、同年一一月一日七、〇〇〇万円をそれぞれたたえ沼産業から受領した。
したがって、分離短期譲渡所得金額は本件土地の譲渡価額三億円から取得価額一億六、〇〇〇万円を控除した一億四、〇〇〇万円である。
3 重加算税賦課決定について
原告は、右述のとおり本件土地の譲渡価額が三億円であるにもかかわらず、そのうち一億円については、たたえ沼産業からの借入金であるかの如き体裁をとり、架空名義を用いて大和銀行吉祥寺支店外二行の銀行に分散して預け入れることによって、右一億円の収入のあった事実を仮装、隠ぺいし、その仮装、隠ぺいしたところに基づき本件土地の譲渡価額を二億円であるとして納税申告書を提出したものであるから、被告は、国税通則法六八条一項により本件重加算税賦課決定をした。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1のうち、総所得金額が三〇三万七、七〇〇円であることは認めるが、分離短期譲渡所得金額が四、〇〇〇万円を超える点は争う。
2 同2のうち、原告が昭和四四年六月三〇日高安進から本件土地を一億六、〇〇〇万円で買い受けたこと、原告が同四七年一〇月三一日本件土地を売り渡し、買主から被告主張の日に合計三億円を受領したことは認める(ただし、その買主はたたえ沼産業ではなく、たたえ沼産業の代表取締役高安進であり、右三億円の支払者も、たたえ沼産業ではなく、右高安であるが、譲渡代金が三億円であることは否認する。
右譲渡代金は二億円であって、残余の一億円は前記高安から原告が借り受けたものである。ただし、右一億円の借受けについて弁済期及び利息の定めはない。
3 同3の事実中、原告が、受領した三億円のうち一億円について架空名義を用いて大和銀行吉祥寺支店外二行の銀行に分散して預け入れ、また、被告に対し本件土地の譲渡価格が二億円であるとして納税申告したことは認めるが、所得を仮装、隠ぺいしたとの点は否認する。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇ないし第一七号証、第一九及び第二〇号証
2 原告本人
3 乙第一号証及び第二号証の一ないし三四の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める(同第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし五、第六号証、第七号証の一ないし二二及び第八号証の一ないし一七については原本の存在並びに成立も認める。)。
二 被告
1 乙第一号証、第二号証の一ないし三四、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし五、第六号証、第七号証の一ないし二二、第八号証の一ないし一七及び第九号証
2 証人関根正
3 甲第一ないし第八号証、第九号証の一及び第一〇号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 本件課税処分の経過及び係争年における原告の総所得金額が三〇三万七、七〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件分離短期譲渡所得の点について判断する。
原告が、昭和四四年六月三〇日訴外高安進から本件土地を代金一億六、〇〇〇万円で買い受け、同四七年一〇月三一日右土地を売り渡し、買主から被告主張の日に合計三億円を受領したが、うち一億円については架空名義を用いて大和銀行吉祥寺支店外二行の銀行に分散して預け入れたことは、当事者間に争いがなく、右事実といずれも証人関根正の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、同第二号証の一、成立に争いのない同第三号証、証人関根正の証言を総合すると、原告は、前記昭和四七年一〇月三一日にたたえ沼産業に対して本件土地を代金三億円で売り渡し、その代金としてたたえ沼産業から前記三億円を受領したが、その一部を隠ぺいするため、たたえ沼産業と通じて、代金を二億円とする虚偽の売買契約書(甲第一五号証)を作成し、残額一億円はたたえ沼産業からの借入金であるかの如き体裁をとることとしたこと、そこで、たたえ沼産業では右一億円を原告に対する貸付金であるとする虚偽の帳簿処理をする一方、原告も、代金のうち二億円については取引銀行である常陽銀行長岡支店に原告名義の定期預金として預け入れたが、残額一億円については最終的には前記のとおり架空名義の預金として分散したこと、が認められる。
原告本人は、右一億円は原告の土地買付用資金として、借り入れたものである旨供述するが、同供述は、成立に争いのない甲第七号証の審査請求書に記載されている原告自身の主張とも一貫せず、その内容が曖昧かつ不自然であって、とうてい信用することができない。また、原告からたたえ沼産業あてに作成された甲第一四号証には、一億円が原告の預り金である旨の記載があり、さらに同第九号証の二には、原告が昭和四七年一二月二五日にたたえ沼産業に対して三、〇〇〇万円を支払い一億円の一部弁済をしたかの如き記載があるが、右甲第一四号証は原告が本件課税処分に対して異議申立をした際に税務署長に提出する目的で日付を遡及させて作成したものであることは、原告本人の認めるところであるし、また、右甲第九号証の二についても、原告が本件争訟を自己に有利にするためにたたえ沼産業の高安進らに種々働きかけをしていることが窺われること(この点は原告本人の供述とこれにより真正に成立ししたと認められる甲第一九、第二〇号証によって認められる。)を考慮すると、その作成の経過にはなお疑問の残ることを否定しえず、これをもって、前記一億円が原告の主張するような借入金であったことの証拠とすることはできない。他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。
してみると、本件の分離短期譲渡所得金額は、右に認定した本件土地の譲渡価額三億円から当事者間に争いのない取得価額一億六、〇〇〇万円を控除した一億四、〇〇〇万円となる。
三 次に、重加算税賦課決定について判断する。
原告が本件譲渡代金のうち一億円につき仮装、隠ぺいをはかったことは前項に認定したとおりであり、また、原告が係争年の納税申告において右一億円を譲渡代金から除外して申告したことは原告の認めるところである。そうすると、原告は課税標準等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい、仮装し、その隠ぺい、仮装したところに基づき過少な納税申告書を提出したものというべきであるから、重加算税の賦課を免れることはできない。
四 以上の次第であるから、本件課税処分に原告主張の違法はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 中根勝士 裁判官 菊地洋一)